税法基準による会計
開業当初から上場でも目指すのでなければ、企業会計は税法基準で作成されます。「税務上益金もしくは損金となるかどうか」が最大関心事で、税務上損金とならないような経費を計上することはまずありません。この場合、別表4における加算項目、減算項目は税務調査で指摘された事項のみが列挙されています。
外部の第三者、特に銀行等の金融機関にとっては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準というものに準拠して作成された財務諸表の方が、企業の実態をより把握できます。上場企業や、会社法上の大会社になると、公認会計士が監査をしますが、公認会計士の監査が不要な企業においては、税法基準が依然として、採用されています。
中小企業の会計に関する指針
公認会計士の監査を受ける必要のない中小企業においても、中小企業が適用することができる「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」として「中小企業の会計に関する指針」が作成されました。強制適用ではないのですが、この基準に拠って作成された財務諸表は一定の水準が保たれていると判断されます。しかし、通常の企業にとって、外部の第三者とは金融機関だけであり、昨今の低金利下における貸出競争で、「中小企業の会計に関する指針」に拠って作成された財務諸表の有無よりも、担保となる不動産の有無の方が重要視されるので、相変わらず広く普及はしておりません。しかし、金融機関との交渉においても、「中小企業の会計に関する指針」に拠る財務諸表を作成しても、なお利益を計上している企業は交渉を有利に進めることもできるので、「中小企業の会計に関する指針」を採用する価値はあります。
以下、税法基準と採用している企業にとって、「税務上認められないのにする意味あるの?」と思われる項目を列挙していきます。
貸倒損失・貸倒引当金
受取手形や売掛金等の債権が法的に消滅した場合のほか、回収不能な債権がある場合は、その金額を貸倒損失として計上しなければならない。
(1) 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。
(2) 取立不能見込額については、債権の区分に応じて算定する。財政状態に重大な問題が生じている債務者に対する金銭債権については、個別の債権ごとに評価する。
(3) 財政状態に重大な問題が生じていない債務者に対する金銭債権に対する取立不能見込額は、それらの債権を一括して又は債権の種類ごとに、過去の貸倒実績率等合理的な基準により算定する。
(4) 法人税法における貸倒引当金の繰入限度額相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる。
→ 税務上、損金になるタイミングよりも早期に損失を計上することになります。
有価証券
有価証券(株式、債券、投資信託等)は、保有目的の観点から、以下の4つに分類し、原則として、それぞれの分類に応じた評価を行う。
(1) 売買目的有価証券
(2) 満期保有目的の債券
(3) 子会社株式及び関連会社株式
(4) その他有価証券
有価証券は、「売買目的有価証券」に該当する場合を除き、取得原価をもって貸借対照表価額とすることができる。ただし、「その他有価証券」に該当する市場価格のある株式を多額に保有している場合には、当該有価証券は時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は純資産の部に計上する。
市場価格のある有価証券を取得原価で貸借対照表に計上する場合であっても、時価が著しく下落したときは、将来回復の見込みがある場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は特別損失に計上する。
→ 決算毎に時価によって利益が増減し、証券市場の影響を受けることになります。
棚卸資産
棚卸資産の期末における時価が帳簿価額より下落し、かつ、金額的重要性がある場合には、時価をもって貸借対照表価額とする。この場合の時価は、正味売却価額をいう。
→ 売却するまでに時価を算定し、損失を計上することになります。また滞留在庫を把握しなければなりません。一度損失を計上すると、現場が高く売ろうとしなくなります。
固定資産
予測できなかった著しい資産価値の下落があった際には、取得原価を減額しなければならない。なお、当該減損額は、減損損失として損益計算書の特別損失に計上する。
→ 減損損失を計上しても税務上損金とはならず、自己資本も減少してしまいます。
引当金
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失とし、引当金に繰り入れなければならない。引当金には、賞与引当金のように法的債務(条件付債務)である引当金及び修繕引当金のように法的債務でないが将来の支出に備えるための引当金がある。
→ 保守的になればなるほど、引当金の金額は増加していきます。また一定の仮定に基づくことになるので、仮定の設定次第で金額が変わってきます。採用する初年度においては、多額の損失が計上されますが、税務上損金とはならず、自己資本も減少してしまいます。
退職給付債務・退職給付引当金
確定給付制度(退職一時金制度、厚生年金基金及び確定給付企業年金)を採用している場合は、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から年金資産の額を控除した額を退職給付引当金として計上する。ただし、一定の場合には、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法(簡便的方法)を適用できる。中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度及び確定拠出型年金制度のように拠出以後に追加的な負担が生じない確定拠出制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理する。
→ 外部に預けている資産の運用状況により、金額が変わってしまいます。採用する初年度においては、通常、損失が計上されますが、税務上損金とはならず、自己資本も減少してしまいます。これも一定の仮定に基づいて計算することになるので、仮定の設定次第で金額が変わってきます。
税効果会計
一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価との差額)が生じた際に、将来その一時差異が解消されるときに課税所得が減少し、それに伴い税金費用が減少することにより純利益が増加する場合には繰延税金資産を計上する。また、一時差異が解消するときに課税所得が増加し、それに伴い税金費用が増加することにより純利益が減少する場合には繰延税金負債を計上する。なお、一時差異に重要性がない場合には繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。繰延税金資産については、回収可能性があると判断できる金額を計上する。回収可能性の判断は、収益力に基づく課税所得の十分性に基づいて、厳格かつ慎重に行わなければならない。
→ 税務上損金不算入、益金不算入項目を確定してからの作業となります。回収可能性の判断ですが、将来の課税所得を予測しなければならず、恣意的な計算になりがちです。
リース取引
所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る借手は、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う。ただし、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる。この場合は、未経過リース料を注記する。リース料支払時には、元本と支払利息の支払いに区分する。
→ リース契約の個別把握が必要になります。この方法を採用したとしても、損益に与える影響は大きくありません。
個別注記表
会社計算規則では、重要な会計方針に係る事項に関する注記等の項目に区分して、個別注記表を表示するよう要求されており、かつ、それら以外でも貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書により会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項は注記しなければならないとしている。したがって、これらの規則に従い注記を行うことが必要である。
→ 利害関係者との取引を開示するなど、開示項目は増加します。
結局は、時価と将来発生するであろう損失を把握して、適時開示せよということです。
退職給付債務については、簡便法を採用すればそんなに困難ではありません。リース会計についても実態としては、リース会社に借入をしているので、その実態を開示せよということです。しかし、現場の担当者からすれば、個別注記表を作成するだけでも、かなりの資料が必要なので決算の忙しい時期に経理担当者に、急に「中小企業の会計に関する指針」に準拠した決算書を作ってくれと言われても対応できません。決算の半年前ぐらいから、検討事項をピックアップして、資料をそろえていかなければなりません。
また「中小企業の会計に関する指針」による決算作業をしてみたものの、意図していなかった損失が計上されることになり、結局、採用を見送ることもよくあります。
上場を目指している企業においては、公認会計士の監査を受ける前に「中小企業の会計に関する指針」を採用して、どの程度修正仕訳が入り、損失が増えるかを試算することをお勧めします。