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合併による繰越欠損金の引継ぎは、ハードルが高い

事業の集約や企業の統合等、事業再編の一環として合併が行われます。

どちらも黒字法人であれば問題はないのですが、被合併法人に未処理の欠損金がまだ残っている場合、合併により未処理欠損金を引継ぐこと可否を検討しなければなりません。

税務上、同一資本グループ内の合併等や共同事業のための一定の組織再編成による合併である「適格合併」に該当する場合、被合併法人の帳簿価額が、そのまま承継法人に引き継がれます。合併により消滅する法人の未処理「繰越欠損金」についても、承継法人に引き継がれるのが原則となります。資産・負債の移転に伴う譲渡損益の課税は、将来売却や除却など実現するときまで、課税が繰延べられることになります。

 繰越欠損金を引き継ぐための要件

被合併法人の未処理繰越欠損金を引継ぎ、繰越欠損金を合併法人で損金算入をするためには、下記のようないくつかの要件を満たす必要があります。

 共同事業を行うための適格合併

従業者引継ぎ、事業継続、事業関連性、規模・経営参画、株式継続保有等の適格要件を満たす場合は、被合併法人の繰越欠損金を引継ぐことが可能です。例えばファミリーマートやサークルKサンクスの合併等、競合企業同士の合併等が該当します。グループ内再編の場合には、適格要件を満たすことができない場合が多く、順次以下の要件を満たすことができるかを検討することになります。

 A 支配関係

① 一の者が法人の発行済株式若しくは出資の総数若しくは総額の50%を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を保有する場合における一の者と法人との間の関係

② 一の者との間に①の関係がある法人相互の関係

直接もしくは間接的に発行済株式若しくは出資の総数若しくは総額の50%超を有していなければなりません。この要件を満たしていない場合は引継ぐことができません。

 B 支配関係の期間

支配関係の期間が5年超に及ぶことが要件となります。

 C みなし共同事業要件を満たしているか

Bの要件を満たしていない場合、「みなし共同事業要件」の検討となります。

次のイ~二の全ての要件に該当するもの又はイ及びホのいずれの要件にも該当するもの

イ 事業の関連性に関する要件
被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業とが相互に関連するものであること

ロ 事業の相対的な規模に関する要件
被合併事業と合併事業(被合併事業と関連する事業に限る。)のそれぞれの売上金額、従業員の数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと

ハ 被合併事業の同等規模継続に関する要件
被合併事業が被合併法人と合併法人の問に最後に支配関係があることとなった時から適格合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、その間における当該被合併事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと

二 合併事業の同等規模継続に関する要件
合併事業についても、ハと同様の要件を満たすこと

ホ 特定役員に関する要件
被合併法人の適格合併の前における特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で、法人の経営に従事している者)である者のいずれかの者と、合併法人の適格合併の前における特定役員である者のいずれかの者とが、適格合併の後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること

 D 被合併法人が支配関係形成時において含み益を有しているか

B、Cの要件を満たしていない場合、「被合併法人の支配関係形成時における含み益」の検討となります。

① 時価純資産超過額 ≧ 被合併法人の支配関係前未処理欠損金額

被合併法人の繰越欠損金は全額、合併法人に引き継ぎ可能。

② 時価純資産超過額 < 被合併法人の支配関係前未処理欠損金額
被合併法人の支配関係事業年度前の事業年度の繰越欠損金のうち時価純資産超過額に相当する金額が合併法人に引継ぎ可能

③ 被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度末の時価純資産価額 < 簿価純資産価額 かつ 帳簿純資産超過額が前9年内事業年度のうち支配関係事業年度以降の各事業年度に生じた欠損金額に係る特定資産譲渡等損失相当額の合計額
被合併法人の支配関係事業年度以後の繰越欠損金のうちの特定資産譲渡等損失相当額のうち、帳簿純資産超過額を超える金額が合併法人に引継ぎ可能

 E 支配関係はあるが、上記B、C、Dの要件を満たさない場合

未処理欠損金額の引継ぎ制限措置の適用となります。具体的には、合併法人等に引き継がれる被合併法人等の未処理欠損金額は、次の①及び②の金額を除いた金額となります。

① 支配関係事業年度前の事業年度に係る未処理欠損金額
被合併法人等の支配関係事業年度前の各事業年度で前9年内事業年度に該当する事業年度において生じた未処理欠損金額は、その全額が引き継がれない。

② 支配関係事業年度以後の事業年度に係る未処理欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額から成る部分の金額
被合併法人等の支配関係事業年度以後の各事業年度で前9年内事業年度に該当する事業年度において生じた未処理欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額から成る部分の金額

まずは支配関係の確立が必要です。そして、支配関係を確立して5年以内に合併する場合は、みなし共同事業要件を満たす必要があります。この両要件を満たさない場合は、制限付きの引継ぎとなります(時価純資産超過額の引継ぎの場合は、含み益の引継ぎも同時に行われるため)。特にみなし共同事業要件を満たすことが困難と予測される場合には、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐために、長期間を要することとなります。